星川秀利 先生
常葉大学
健康プロデュース学部
心身マネジメント学科
准教授 博士(人間科学)
専門領域:
運動生理学、スポーツバイオメカニクス
沢崎健太 先生
常葉大学
健康プロデュース学部
健康鍼灸学科
准教授 博士(医学)
専門領域:
スポーツ医学、鍼灸学
常葉大学の健康プロデュース学部に所属する星川先生・沢崎先生は、運動生理学と鍼灸の二つの観点から捉えた共同研究で、ソマレゾンによる皮膚刺激の運動による疲労からの回復を血中の乳酸濃度と心拍数の時間経過値から検証。
ソマレゾンの貼付が、運動による疲労回復を促進する可能性を発表しました。
実験概要
男子大学生7名
S条件(ソマレゾン)と
C条件(プラセボ)の2回
(突起があるかどうかは実験者には感じられず、また知らされないため、実験ではどちらを貼付しているか実験者と被験者にはわからない。ランダム化二重盲検法で実施)
手順
1. 皮膚刺激ツールをツボ足三里に貼付
2. ウォーミングアップ
(ペダリング運動 60rpmにて5分間)
3. 全力ペダリング運動 30秒間
4. 安静回復
結果
血中乳酸濃度 → 低値に
S条件の運動後の血中乳酸濃度が有意に低下。
心拍数の変化 → 低値に
S条件の運動回復時の心拍数が有意に低下。
きっかけは学科は違うものの同じ健康プロデュース学部の准教授である沢崎先生から声をかけてもらったことからです。この研究を行う前段階として、堀田先生の「皮膚刺激でオピオイド系が活性化されるラット実験」の基礎研究が既に発表されているという点が大きかったです。基礎データがしっかり取られていて、これは信頼できる・可能性がある方向だと判断できたことが今回の実験に踏み切った大きな要因です。 (堀田教授の研究紹介はこちら)
これまで培った運動生理学研究のノウハウを活かせ、そして大学のスポーツ医科学センターという環境が揃っている。これはもう自分たちがスポーツ科学的観点からデータを取るしかないなと、スタートしたというわけです。
鍼灸の現状として、スポーツで身体に負担がかかっている人であっても、患者さん自身が鍼治療をやってみたいけれど、自分の体に鍼を刺すということに抵抗があるという人が実に多いんです。鍼は効くだろうと想像はつくが鍼は打ちたくない、そういう患者さんに皮膚刺激のソマレゾンはとても入りやすい製品であると考えています。
ソマレゾンは刺さないので動いても傷つけませんし、それは鍼を打つ側としても心理的負担が軽い製品です。皮膚刺激による治療が広がることによって、鍼灸治療の裾野が広がっていく可能性があると期待している点もあります。
スポーツ分野で刺さない鍼による皮膚刺激の有用性を確実に広めるためには応用研究が必要で、今回はその応用研究の第一歩を踏み出すことができたと実感しています。
自律神経には交感神経と副交感神経があります。交感神経は「闘争と逃走の神経」と言われており、「活動」「緊張」などの働きをします。一方、副交感神経は「休息と吸収の神経」とも呼ばれ、交感神経とは逆の「安息」「リラックス」の働きをします。 通常、朝起きると徐々に交感神経が優位になり、日中は活動的になります。
夕方以降は徐々に副交感神経が優位になり、夜はリラックスし眠りにつきます。人間は、この2つの神経のバランスをとりながら活動し、健康を保っています。 逆にこのバランスが崩れると、朝起きても疲れが取れていない状況や、寝つきが悪い・すぐに目が覚めてしまう状況にもなりがちです。現代病の一つと言われている、自律神経失調症もこれらのバランスが崩れた状態だといえます。
運動時には、交感神経が優位になり、心臓の活動を速めたり、血管を収縮させるなど、体の機能を高めるアクセルとして働きます。一方、運動後は副交感神経が優位になり、高まった機能を元の状態に戻すブレーキとして働きます。 運動後も交感神経活動が高い状態が続き、運動前のリラックス状態まで回復するのにはしばらく時間がかかると言われていますので、少しでも早く自律神経のバランスを整えることが疲労回復には重要だと考えられます。
本実験では、ソマレゾンを貼付したS条件で、乳酸の低下が確認されました。これは、血管拡張や血流量が通常のC条件よりも増加したと考えられ、自律神経のバランスが改善したことによって血管の収縮が抑制されたからであると推測されます。
同じく心拍数についても、ソマレゾンを貼付したS条件で心拍数の低下が認められました。これも、皮膚刺激によって心臓の交感神経活動が 低下あるいは副交感神経活動が亢進したことにより、興奮状態から早く回復して安静回復中の心拍数が低下したものと考えられます。
皮膚刺激が、運動によって高まった交感神経を抑制、あるいは副交感神経を亢進させ、身体機能や代謝産物を安静状態へ回復促進させているという可能性が示唆されました。
今回、血中乳酸濃度や心拍数などのデータにより皮膚刺激による刺さない鍼の有効性が示されたものの、どのようなメカニズムによるものかの解明は、今後の課題となっています。
今後は心拍変動や血圧変動などから自律神経活動を測定し、そのメカニズムを明らかにすることが期待されています。それにより運動後の自律神経バランスの改善だけではなく、自律神経のバランスが崩れることによって生じる様々なトラブル、例えば心臓の活動異常、オーバートレーニング症候群などへの応用も可能となると考えられています。
今回の実験では、運動開始前に、血流を促し、全身・足の疲れを取るツボとしてメジャーな『足三里』にソマレゾンを貼付。沢崎先生に、その他にも効果が見込めるオススメなツボを伺いました。
場所:ひざの皿の外側のくぼみから指4本分下。 すね側の骨のくぼみ。
場所:足の甲にあり、親指と第2指の骨の交差する部分と付け根の間部分にあるツボです。
場所:足の外側のくるぶしから、膝方向に指の幅5本分の場所にあるツボです。
場所:足の内側のくるぶしとアキレス腱の間のくぼみから、アキレス腱と平行膝方向に指3本分あけた場所にあるツボです。
また、既に痛みがあったり、運動後に痛みが出た場合、その周辺を押してみて、ひときわ痛みを感じる点にソマレゾンを貼るのもオススメです。